レンタルチェーンのTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者として運営する佐賀県の武雄市図書館。スターバックスや蔦屋書店を併設、2014年4月1日にはリニューアル開館から1年を迎えて、年間来館者が92万人を突破する人気施設となっている。
その武雄市図書館のリニューアル直前に武雄市が除籍(廃棄)した資料のリストがネットで公開された。その中に郷土資料が含まれ、大量のDVDもあったことから館内に併設されているTSUTAYAへの便宜があったのではないかという疑問の声が上がっている。武雄市はハフィントンポストの取材に対し、除籍基準を開示し、これを否定した。
■460点以上のDVDを除籍 「ハリー・ポッター」も
リストは、「平成24年度の武雄市図書館・歴史資料館の改修にあたって廃棄された蔵書(雑誌・新聞も含む)・視聴覚資料(蘭学館で使用されていた分も含む)の一覧」とされる公文書。長崎市在住の前田勝之さんが4月21日に公開した。
武雄市によると、除籍は指定管理者制度を導入する以前に行われた。除籍された資料のうちには、2013年4月の開館にともない閉鎖となった歴史資料館の常設スペース「蘭学館」のものも含まれている。蘭学館のスペースは現在、TSUTAYAのレンタルゾーンになっている。
リストによると、除籍された書籍や雑誌は約5500点、ビデオやCD、DVDの視聴覚資料は約3250点となっている。このうち、特にネットで問題視されているのが、DVD464点の除籍だ。映画「ハリー・ポッター」シリーズなど人気タイトルも含まれており、併設されているTSUTAYAで有償レンタルされている作品もある。郷土資料ともいうべき地元誌も除籍されていることから、図書館のアーカイブ機能が損なわれているのではという指摘もあった。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんやジャーナリスト、弁護士などからも、疑問を呈するツイートが多く見られた。
■「収集方針の変更や大規模な除籍について、市民に理解を得ていたか」
こうした除籍は、果たして異例なのだろうか。書籍の除籍は、収蔵スペースに限りのある図書館にとって通常、行われている活動だ。ただし、むやみに除籍するのではなく、「除籍基準」を設けて実施している。主に対象となるのは、蔵書点検によって長期にわたって所在が不明な資料、貸し出したものの回収の見込みがない資料、破損や汚れがひどく修理が不可能な資料、実用書や入門書などで他の書籍で代用が可能な資料などだ。こうした基準は図書館のサイトで公開したり、郷土資料を除籍対象にしないと明記するケースもある。
公立図書館の現場で働く司書数人に、このリストについて取材した。図書館の大規模な改修にともない、蔵書を大幅に整理することは決して異例ではないとはしたものの、多くの司書が違和感を指摘するのは、郷土資料とDVDの除籍だ。
図書館法の第三条では、「図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿い、更に学校教育を援助し、及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し、おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない」と定めている。
掲げられた事項には、「郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料を収集し、一般公衆の利用に供すること」とあり、まず郷土資料収集の重要性を指摘している。こうした原則から、多くの公立図書館では郷土資料の収集保存に力を入れており、武雄市図書館の除籍対象に地元誌が数タイトル含まれていることに疑問を覚える司書もいた。
別の地域のある市立図書館の司書は、「まず、そもそも日常の除籍と新館開館や改築の際の大規模な除籍とは異なることが多いです。開館等の節目に大量に除籍するということはままあるでしょう。新しい施設になって、収集方針などが大幅に変化する場合、収集方針の変更に合わせて蔵書を除籍することもあり得なくはありません」と話す。
「除籍は一般的に利用頻度が落ちた場合や、汚破損、物理的に古くなった場合などになされます。また複本の有無なども関係しますので、現物を見ないと一概にリストだけでは判断できません」
しかし、「いくつか引っかかること」もあるという。「『温泉』や『温泉博士』などこれまで武雄が重点的に収集していたと思われる温泉関係のコレクションを廃棄していること。これは今後収集しないということも含めてですが、手間のかかる地域に関係するコレクションを放棄したとも受け取れます」。特に、視聴覚資料については、「CD、DVDの廃棄は盤面が傷ついて視聴できない場合をのぞいて、公共図書館ではほとんど行なわれていない」とする。
「CD、DVDなどのディスクメディアの除籍が稀である理由の一つは、活発な利用に比べて資料点数がどこの図書館でも足りないためです。特に著作権処理が必要な図書館での貸出許諾付きのDVDは1点1万円以上と、高額書籍に匹敵するためなかなか点数を揃えることができません。逆にそれを廃棄するということは通常行なわれないでしょう」
除籍リストが公開されたことで、武雄市図書館に対する批判が起きた。「TSUTAYAのレンタル在庫と被るとはいえ、市民にとっては無料で貸出できる資料とレンタルが併存していた方が利益があり、書架をそれほど要しないことを考えると、DVDの除籍については市民の財産の安易な廃棄として批判を受ける可能性はあるかと思います。ただ、これらは行政内部の決済手続は踏んでいるものですから、そのような収集方針の変更や大規模な除籍について、市民にきちんと説明し、理解を得ていたかというあたりの問題でしょう」と指摘している。
■武雄市は除籍にあたり、TSUTAYAへの配慮は否定
ハフィントンポストでは4月23日、このリストについて武雄市へ質問状を送った。4月24日に武雄市から届いた回答は以下の通り。
除籍する資料は
・不明が判明した蔵書点検から3年以上経過し、当該年度の蔵書点検でも発見できなかった資料
・経年や利用者による汚損破損や劣化のため利用できない資料
・2年以上未返却の資料
・借りていないと言われて2年以上たった資料
・閉架書架で管理している資料のうち、数年間貸出し実績がない若しくは極めて利用が少ない資料で劣化が見られる資料
その他、諸般勘案して決めております。
また、「地域資料『温泉』『温泉博士』『コスモス』『みを』などが除籍されておりますが、この理由をお教えください」「約460点ほどのDVDが除籍されていますが、これらのDVDは再生できないほどの破損はありましたでしょうか?」という質問については、上記の除籍基準に基づいて行われたという。
「除籍されたDVDは同じタイトルが、武雄市図書館内にあるTSUTAYAでもレンタルされているようですが、TSUTAYAへの配慮があったのでしょうか?」という質問に対しては、「TSUTAYAへの配慮はございません」と否定した。
ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています。
ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています。@HuffPostJapan をフォロー
関連記事