国交のない日本において、事実上の「北朝鮮大使館」とも言われた建物の行方が迷走を続けている。
北京で3月30、31日にあった日朝政府間協議に参加した北朝鮮側の代表が、東京・富士見町の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルの競売問題に言及した。
宋日昊(ソンイルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使が1日、北京空港で記者団の取材に応じた。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の競売問題に言及し、「実務的な法律問題ではなく、朝鮮と日本の関係進展のための根本問題だ。我々は(売却問題が)解決できなければ、朝日関係を発展させる必要がないと思っている」と話した。
(中略)
宋大使は「(中央本部は)日本の朝鮮同胞の仕事と生活の拠点で、強制売却はあってはならない」と強調。協議の中でも日本側に、「強い憂慮を表明し、必ず解決すべきだと言うことを明確に伝えた」と話した。
(朝日新聞デジタル「北朝鮮側「総連本部問題、解決なければ関係発展は不要」」より 2014/04/01 13:17)
拉致問題の再調査や遺骨返還などが話し合われるとみられた日朝協議だが、総連ビルの競売問題も一つのテーマとなるのだろうか。
複雑な経緯をたどった朝鮮総連中央本部ビルの売却問題。20世紀の乱脈経営で破綻した朝銀信組の後始末として、2007年に申し立てられた競売は、総連との訴訟が長引き、7年たった今も終わっていない。ここで改めて、経緯を振り返る。
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■発端は「朝銀の経営破綻」
ことの発端はバブル以降、全国にあった朝鮮総連系の金融機関・朝銀信用組合の経営が悪化したことだ。主に担保価値に見合わない融資を在日朝鮮人企業や個人に融資することで巨額の負債を抱えた。1998年から最終的に16朝銀信組が経営破綻したが、当時の預金保険法に基づく預金全額保護のため、計1兆円を超える公的資金が預金保険機構から「贈与」として投入された。最終的に北朝鮮に流れたのではないか、との疑惑も指摘された。
金融の世界では、融資したカネは融資先の銀行口座に預金として現れる。カネの流れは口座をたどって追えるが、朝銀の場合、億単位の資金が「現金融資」され、そこで途絶えるという。
やがて融資先が倒産し、「貸し倒れ」として処理される。資金は回収されないまま現金はどこへ行ったか分からない。
(アエラ2001年12月17日号「朝銀事件の核心は『誠金』 預金装う献金に」より)
破綻処理の過程で、整理回収機構(RCC)が16の朝銀信組から買い取った不良債権計約1810億円のうち、約628億円は個人・法人の名義で実質的に朝鮮総連へ融資されていたとして、RCCは2005年に朝鮮総連を提訴した。2007年6月18日、東京地裁は全額の返済を朝鮮総連に命じ、資産差し押さえを可能とする仮執行を宣言した。総連は控訴せず、同26日にRCCは中央本部の土地と建物の強制競売を東京地裁に申し立てた。
なお、総連側は競売回避を模索し、中央本部の土地と建物を、元公安調査庁長官の緒方重威氏が代表取締役を務める投資顧問会社に売却。判決直前の6月1日に所有権が移転登記した。売却資金をRCCに提供することで明け渡しを回避し、総連自体は賃貸借契約を結んで建物に入居し続けようとしたとみられるが、13日に東京地検特捜部が強制捜査に乗り出し、緒方氏は総連幹部から約4億8千万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で逮捕された(2012年3月に東京高裁で有罪判決)。所有権の移転登記も結局、抹消された。
ただ、「在日本朝鮮人総連合会」は任意団体で土地・建物の所有権を登記できず、登記上の所有者は別の合資会社名義だった。実質的な所有権が朝鮮総連にあることを確認する裁判が続き、最高裁で総連敗訴の判決が確定したのは2012年6月。これを受けて翌7月に競売手続きが東京地裁で始まった。
■お寺、モンゴル…競売は意外な展開に
2013年3月26日に入札結果が発表され、鹿児島市の宗教法人「最福寺」が45億1900万円で最高額だった。しかし5月10日、池口恵観法主は「資金を調達できなかった」として購入を断念した。
寺によると、融資交渉には金融機関や商社など5社が応じた。うち3社と合意に至ったが、いずれも振り込み前の段階で一転して断られたという。大手銀行とは、中央本部の土地・建物と寺の別院を担保に約50億円の融資を受けることで合意していたとも明かした。寺関係者は「(融資に応じた銀行が)監督官庁に届け出たら、『だめだ』という話があった。金融庁が振り込みをさせないなどの圧力があった」と主張した。
これに対し、菅義偉官房長官は10日の会見で、国からの「圧力」について「金融庁にも確認させたが、百%ない」と反論した。
元公安調査庁調査第2部長で北朝鮮情勢に詳しい菅沼光弘さん(77)は、拉致問題などを抱える中、日本政府内には総連にも圧力重視で臨む姿勢があると指摘。「銀行の顧問には警察出身者もいる。一声かけただけで企業はたじろぐ」とし、国の影響が及んだ可能性はあるとみる。
(朝日新聞デジタル「総連本部購入を正式断念 落札の寺『資金難、国も圧力』」より 2013/05/11 04:35)
再入札が行われ、2013年10月17日に発表された最高額は、モンゴル企業「アバール・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー」の50億1千万円だった。しかし「書類が公的機関発行のものではない」とされ、東京地裁は売却不許可と決定。2014年3月24日、2回目の入札で2番目に高い22億1千万円を提示した高松市の不動産投資会社「マルナカホールディングス」に売却を許可した。マルナカHD代理人は記者会見で「建物の明け渡しを求める」と明言した。
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