労働者派遣法の改正でIT業界が大ピンチ。業界再編も?
労働者派遣法の改正案が閣議決定されたが、この改正案が施行されると、大変な激震に見舞われるといわれる業界がある。それはIT業界である。
政府は2014年3月11日、労働者派遣法改正案を閣議決定した。今国会で成立すれば2015年4月から施行される予定となっている。
今回の改正では、従来、26業種だけに例外的に認められてきた3年を超える派遣の受け入れが原則としてできなくなる。一方で、人を変えれば、すべての業種で3年を超えて派遣労働者を受け入れることも可能となった。
派遣を受け入れる企業側にとっては、人さえ変えれば、継続的に派遣社員を利用できることになる。
マスメディアの関心の多くは、この改正で派遣労働者の立場がどうなるかという点に向いている。だがIT業界の派遣労働者はもっと深刻な問題に直面している。派遣会社をすべて国の許可制にし、派遣労働者への教育訓練を義務づける内容が盛り込まれたことで、中小派遣会社の存続自体が危なくなってきたからである。
IT業界はスマートなイメージとは逆に、現実はかなり労働集約的な世界である。一部の派手な有名企業を除けば、企業向けシステムの開発現場は非常に泥臭い。システムの開発や保守といった業務には、大量の派遣社員が低コストで動員されているのが実態だ。
IT業界の派遣は主に特定労働者派遣事業と呼ばれるタイプのもので、派遣労働者の常時雇用が義務付けられる代わりに、届け出だけで事業を行うことができるという簡単なものである(一般的に派遣会社と呼ばれる会社の多くは一般労働者派遣事業)。このため、中小企業も含めて多数のIT企業が派遣業の届け出をしており、かなり安易にSEやプログラマなどの技術者を派遣している。このため企業によっては、劣悪な労働環境になっているところがあり、一部にはブラック化しているという指摘もあった。
今回の法改正で派遣業のカテゴリーが一本化されたため、これらの企業が継続して業務を行うには、財務上の条件など高いハードルをクリアする必要が出てきた。だが体力のない中小企業の場合、これらの条件をクリアできる可能性は低く、多数のIT企業が業務の継続に支障を来す可能性がある。
実はIT業界は、市場規模に比べて企業数が多く、業界全体として合理化が進んでいないといわれる。過去には何度か中小IT企業の合従連衡が試みられたが、あまりうまくいっていない。システム開発自体にはまだ強いニーズがあるため、IT業界は仕事には困らない状況が続いている。皮肉なことだが、これが業界全体の合理化を妨げる要因のひとつにもなっている。
今回の派遣法の改正は、ややもすれば「ITゼネコン」と揶揄される旧態依然の業界に、地殻変動を引き起こすことになるかもしれない。
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