【データで見る原発問題】脱原発したら温暖化対策はどうなるか

福島第一原発の事故から3年。原発と温暖化の問題をデータから検証します。
A worker wearing a protective suit and mask looks at storage tanks for radioactive water under construction in the J-1 area at Tokyo Electric Power Co.'s (Tepco) Fukushima Dai-Ichi nuclear power plant in Fukushima, Japan, on Monday, March 10, 2014. Tepco's Fukushima Dai-Ichi plant had three reactor core meltdowns after it was hit by an earthquake and tsunami on March 11, 2011. Photographer: Toru Hanai/Pool via Bloomberg
A worker wearing a protective suit and mask looks at storage tanks for radioactive water under construction in the J-1 area at Tokyo Electric Power Co.'s (Tepco) Fukushima Dai-Ichi nuclear power plant in Fukushima, Japan, on Monday, March 10, 2014. Tepco's Fukushima Dai-Ichi plant had three reactor core meltdowns after it was hit by an earthquake and tsunami on March 11, 2011. Photographer: Toru Hanai/Pool via Bloomberg
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今、使っている電力は、どうやって発電しているのか――

2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故以降、原発に対しての是非は国論を分ける問題になっている。しかし、喫緊の問題である原発に隠れる形で、半ば忘れられているのが温暖化問題だ。2008年の洞爺湖サミットにおいて国際社会の合意となっている、「2050年までに2005年比で半分に」の目標は、現在のエネルギー事情で達成できるのか。この点を検証するため、

(1)震災後、どんな手段で発電するようになったのか

(2)震災後、温室効果ガスの排出は増えたのか

(3)震災後、温室効果ガスの排出量が変動した理由

(4)原発と温室効果ガスの排出量は関係があるのか

(5)原発は、温室効果ガスの削減にどの程度影響があるのか

(6)温暖化防止政策において、原発はどのように捉えられているのか

この6つのテーマをデータから掘り起こし、エネルギーと温暖化をめぐる問題の「現在地」を探ってみたい。各種指標の計算は、専門家の指導に従って行った。

■(1)震災後、どんな手段で発電しているのか

まず、震災以前、震災以後で電力がどうつくられてきたのかを分析した。ここではっきりわかるのは、原発が使えなくなった分、火力で補っているという事実だ。下のグラフの一番下の水色が原子力、真ん中の緑色がLNG(液化天然ガス)を使った火力だが、2011年以降、原子力が減る一方でLNGの割合が大きく増えている。

■(2)震災後、温室効果ガスの排出は増えたのか

次に、温室効果ガスの排出量を見てみよう。当然、火力が増えている分、排出量も増えている。だが、増加に転じたのはリーマンショック後の景気回復がみられた震災以前の2010年。震災後「から」増えているわけではない。

(3)震災後、温室効果ガスの排出量が変動した理由

2010年以降なぜ温室効果ガスが増えているのか。

どの部門が温室効果ガスを排出しているのか時系列で並べたのがこのグラフだ。2011年から「発電」が右肩上がりで増えている。そのほかの部門はほぼ横ばい、もしくは微減。つまり、増えた分の多くが、発電によってもたらされたものであることがわかる。

(4)原発と温室効果ガスの排出量は関係があるのか

温室効果ガスの排出係数と、発電された電力において、原子力が占める割合をグラフにした。排出係数と原子力比率は逆の動きを示している。つまり、2011年以降の排出量が増えたことと、「原発から火力に切り替えたこと」の関連が疑える。

(5)原発は、温室効果ガスの削減にどの程度影響があるのか

原発を使えば、温室効果ガスの排出は減る。では、1基でどのくらいの効果があるのか。得られるデータで計算したのが下の図だ。1基につき日本全体の排出量を0.24%減らす効果がある。

現在、停止している原発は49基あるが、仮にそのうち20基が再稼働した場合、日本の排出を5%弱減らせるという計算になる。

(6)政策からみて、温室効果ガスと原発の関係はどのように捉えられているのか

ここまでは原発がどの程度、温室効果ガスの排出量と関係があるのかを見てきた。次に、政府は温暖化対策についてどのような方針を検討しているのかを見てみよう。現在の政策のベースとなっているのは、震災前の2009年に検討された4つの案だ。

・無理しない現状維持の消極的なプラン(2005年比4%減目標)※グラフ中では選択肢1と記述

・現実的な範囲で最新設備の導入をする、やや消極的なプラン(同14%減目標)※グラフ中では選択肢3

・財政出動または規制で削減するやや積極的なプラン(同21%減目標)※グラフ中では選択肢5

・経済成長を犠牲にしてでも最大限削減する積極的なプラン(同30%減目標)※グラフ中では選択肢6

この4つのプランのデータをまとめたのが、この表だ。明らかなのは、「削減目標が高ければ高いほど、GDPや所得など経済にダメージを与える」という点だろう。

さてこのプランに沿って考えた場合、原発の有無は削減量にどういう影響を及ぼすのか。

原発の有無と、2020年に想定されるGDPを織り込み、補正したかどうかで分類し、簡単な仮定のもと、計算したのが以下のグラフになる。結果から言えば、すべてのシナリオがもともと「原発ありき」のものだったので、原発なしだと、もっとも経済に悪影響を与える積極策を用いてようやく、1990年の水準になる程度。洞爺湖サミットでは世界全体で2050年までに半減を目標とすると合意されたが、先進国である日本はさらに高い目標が求められる。2020年時点で増加していては、2050年の目標達成は到底望めない。

この厳しさは、増減率を表すグラフでいっそう明瞭となる。原発なしの状況下では、消極策では削減どころかむしろ増加している。目標を達成しようとすれば、GDPを犠牲にする積極策が求められることになる。

2013年12月に開催された温暖化防止の国際会議「COP19」で、日本は原発なしであればという条件付きで「2005年比3.8%減」(1990年比3.1%増)という目標を公表した。それは達成するためには、この計算上では少なくとも「やや積極策」を取る必要がある。いずれにしても、原発なしの条件で「2050年で半減」の道筋は、まったく立っていない、ということが言えるだろう。

■まとめ

データで明らかになったのは……

(1) 原発事故以降、火力で代替している

(2) その結果、温室効果ガスの排出は増えた

(3) 原発なしの前提で考えると、「2050年に半減」の国際的な目標の達成は極めて厳しい

データ上では、原発が温暖化防止に一役買っているのは事実だが、また同時に事故によって起こる被害の甚大さも計り知れない。原発と温暖化。決して逃れられられない大きな問題を前に、どのような未来を選択していけばよいのだろうか。

※皆さんは原発と温暖化の問題について、どのように思いますか。

【データ出典】

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