「脱原発」は首都・東京の都知事選で争点になりうるのか。各候補者の原発を巡る論点がかみ合わない中、立候補していないのに都内を車で走り回りながら、独自の表現で脱原発を主張する人物がいた。
■「こんな国、終わらせましょう、原発で。デストロイ・ジャパン」
2月3日午後、東京。ターミナル駅の交差点に、チンドン風のメロディーとともに大音量が響いた。
「こんな国、終わらせましょう、原発で。私たちはテロリストです。格好の標的をいつまでも残してくれる、原発推進派を勝手に応援しています。デストロイ・ジャパン」
音楽はRCサクセションの「原発賛成音頭」。道行く人は、呆気にとられ、視線だけで街宣車を追ったり、手を振ったり、指さして笑ったり、耳をふさいで足早に立ち去ったり。
「こんな国もう滅ぼそう原発で」と書かれた街宣車を運転するのは、外山恒一氏。2007年4月の東京都知事選に立候補し、政見放送で「どうせ選挙じゃ何も変わらないんだよ」と叫んで話題になった。2014年の都知事選に合わせ、「ほめご(ほめ殺し)」と称して、推薦政党が原発再稼働を推進していたり、公約で原発推進を主張していたりする2人の候補を「勝手に応援する」と、拠点とする福岡から車で乗り込んできた。
入れ替わり立ち替わり乗り込んで交代でアナウンスするのは、学生や社会人の男女。外山氏のブログやTwitterで今回の街宣を知り、個別に外山氏に連絡を取って集まってきたという。
この日、街宣車に乗り込んでアナウンスした30代の会社員の女性は、かつて有志で駅前に立ち、通行人に原発推進か、脱原発かをアンケートしたことがある。「あのときは心ない言葉を投げかけられたりして、通行人に殺意すら感じました。でも、今回、道行く人がちゃんと手を振ってくれる。見ている人がどういうつもりで振ってくれるのかは分からないけど、すっごく楽しい。こういうやり方もありだな、と思いました」
車は青山や新宿、高田馬場などの繁華街を一巡りしたあと、高円寺にたどり着いた。午後8時から毎日、駅前の広場で参加者らが缶ビールを片手に語り合う。
■「ようやく首都の地方選挙で争点の1つになった。諸外国に恥ずかしい」
外山氏に聞いてみた。
――意外でしたけど、脱原発なんですね
いわゆる「核のゴミ」の問題は言うに及ばず、原発で働く被曝労働者の問題もあります。大半は好きで働いてるんじゃない下層労働者です。被曝にも階級格差があるということです。
原発の大事故は、どこかで何十年かに一度は起きるんです。それがたまたまアメリカだったり、ソ連だったり、日本だったりしただけのこと。環境問題にしたって、CO2は出さないかもしれないが、何十年に1回、大変な環境汚染を引き起こすことは証明済みです。
福島第一原発の事故だって、もし首相が菅直人でなくて、所長が吉田昌郎でなかったら、東電の撤退方針に体を張って反対しなかったかもしれないし、そうなっていたら日本はアウトだった。ともかくもこの騒ぎで、日本の原発は3日間、電源が止まれば大変なことになるってことがばれちゃった。たとえば利害対立のある国やテロ組織が決死隊を送り込んで、原発を占拠して電源を切り、3日間必死で頑張ったら、ひとたまりもない。
そもそも原発には核武装と、そのための軍事技術の維持という目的があることは、開発の経緯を見れば分かるわけで、経済性とかエネルギー戦略とかコストの問題とか、あとから正当化するために作り上げた理屈です。だったら、核武装という真の目的を隠すために原子炉を発電に流用する原発なんかやめて、せめて純粋に核武装の実現を目指してほしい。
C02とかエネルギーのコストとか、全部ウソなんだから、脱原発派も代替エネルギーを提案したって意味がない。核武装を容認するか、核武装以外の選択肢を提案するか、しかないのかもしれません。
――報道機関の世論調査を見ても「脱原発」は有権者の一番の関心事にはなっていないようですが
期待していたほど争点にはなっていないですね。でも争点の1つにはなっているでしょう。
――そもそも「脱原発」は都知事選の争点なのか、と疑問視する人もいますね
3.11から3年たつのに、1回も大きな選挙で争点になっていないのは異常じゃないですか。2回の国政選挙はいずれも原発推進か、脱原発かが争点ではなかった。今回ようやく首都の地方選挙で争点の1つになった。諸外国に対して恥ずかしいことですよ。
首都の首長が反対か推進かというのは、おのずと国政にインパクトを与えるでしょう。そもそも被災者の受け入れや、最近下火になりつつあるけど被災地のがれき受け入れなど、原発推進、反対どちらがキャスティングボートを握るかによって、住民に身近な政策が大きく変わります。だから地方選で原発を争点にしていけない理由なんてない。
まあ、私自身は選挙そのものに否定的なので、脱原発の宇都宮氏や細川氏の陣営に加わるつもりもない。選挙の機会を利用した政治的表現の提示としてやってます。脱原発派の劣勢が伝えられていますから、期待にそぐわぬ選挙結果となった場合にも脱原発派が意気消沈しないように面白く盛り上げることで、モチベーションを維持するという目的もありますが。
■「さまざまな『規格外』の選挙介入を」
――この行動が、有権者に何か影響を与えられるでしょうか
僕は自分たちの行動が選挙の結果に影響を与えるとは期待していない。今回日替わりで街宣車に乗って「ほめ殺し」スピーチに初挑戦した人たちが面白がって味をしめて、僕がわざわざ九州から遠征してきてセッティングしなくても、「ほめ殺し」を含めたさまざまな「規格外」の選挙介入を、公選法上可能な範囲で今後自主的に模索してくれるようになることが、僕の今回の一番の獲得目標です。
僕が福岡を留守にしている間にも、玄海原発に近い糸島市長選で福岡の脱原発派の若者たちが僕の行動に刺激されて街宣車を仕立てて1日だけ「ほめ殺し」をやったみたいですし、東京でも、選挙序盤に僕の街宣車に乗った人がその後独自に仲間を募り、僕とは別個に、徒歩でメガホンを使って繁華街で「ほめ殺し」を続けています。
そういう人が他にも次々出てきてくれて、例えば次の何か大きな選挙で50組とか100組の規模でやり始めれば、選挙結果にも影響を与えかねないんじゃないでしょうか。
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