(報われぬ国)高齢者を放り出す自治体
4月から消費税率が8%に上がり、「負担増の時代」が幕を開ける。だが、負担は超高齢化社会で報われるのだろうか。社会保障の現場から報告します。
沖縄県北部にある老人ホームに、がらんとして薄暗い一角がある。鉄筋2階建てのうち2階の半分を占める養護老人ホームだ。
「昔はね、満室だった。毎日カラオケをしてにぎやかだった。すっかり人も減って。寂しいね」。サノさん(89)がぽつりと言う。
定員は50人なのに入所者は28人しかいない。30室ある一人部屋はほとんど空室で、4畳半にベッドがぽつんと置かれているだけだ。
養護老人ホームは、貧しかったり身寄りがなかったりして自力で暮らせない高齢者(65歳以上)を受け入れる。老後の安心を守る最後のとりでだ。介護が必要な高齢者が介護保険を使って入る特別養護老人ホームと違い、自治体が「措置」という名で入所を決め、費用をすべて負担する。
サノさんが入る養護とは逆に、1階と2階の残り半分を占める特養は満室だ。「養護は市町村が措置しなくなって減るばかり。特養は100人以上が入所待ちなのに」と施設長は言う。
ここの養護では、名護市などから高齢者を受け入れてきた。かつては満床に近かったが、この数年は新たな入所がなくなった。自治体による「措置控え」だ。
入所者を追い出す「措置外し」さえある。
2011年6月、沖縄県南部にある養護にいた女性(90代)の親族に、南城市から文書が送られてきた。「介護の認定をさせるように」という要請だった。
親族は市に呼び出され、「特養がいいですよ」と勧められた。いきなり環境が変わるのを心配したが、女性は措置を解除され、住み慣れた養護を後にした。
前年には、糸満市がこの養護にいた別の女性(80代)の措置を外した。息子から虐待を受け、保護されて入所したのに、再び一緒に暮らしているという。
いま、沖縄県全体で養護の入所者は定員の7割しかいない。「養護1人で生活保護4人分の財源がなくなる。措置を求められても、国が主に負担する生活保護や介護保険を利用してもらう」。県北部の市の担当者はそう打ち明ける。
措置控えは全国に広がっている。「21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会」(大阪市)が、全国の養護の施設長に昨年9月に聞いたアンケート(301施設が回答)では、60%が「定員割れ」と答えた。その原因として「行政による措置控え」という答えが29%と最も多かった。
「市の担当者から今後は措置しないと明言された」(岡山)、「予算が計上されていないと断られた」(神奈川)、「介護保険を使って在宅を続けるよう勧めている」(福岡)、「まさに責任放棄だ」(群馬)。施設長からは、生活に困る高齢者を放り出す自治体に疑問の声があがる。
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