インド選挙管理委員は、グーグルによる投票者の登録支援計画を中止した。中国では、シスコ社のルータ販売が最新四半期に10パーセント下落した。ヨーロッパの規制担当局は、AT&T による無線通信業者ボーダフォンの買収を阻止すると脅した。
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テクノロジー業界は、いわゆる『スノーデン効果』に苛立たされている。というのは、米国家安全保障局(NSA)の元契約業者エドワード・スノーデンにより世界中へのアメリカの防諜行為の広がりが暴露されたことで、企業がアメリカ企業との取引を避けるようになったのだ。最近のグーグル、シスコ、そしてAT&T の海外での後退は、部分的には、このNSAスキャンダルで企業が果たした役割に対する国際的な抗議を原因としている。
米インディアナ大学のフレッド・ケイト法学教授は言う。シリコンバレーによる政府の監視プログラムへの関与に対する批判は、最初はヨーロッパの政治家が「この機会をアメリカ叩きに利用しよう」とすることに限られていた。
「しかし、業界からの報告が示すように、今はそれ以上になっている」と彼は付け加えた。「これは単なる一時的な影響以上のものだ。本当に打撃を与え始めている。」
スノーデン暴露の影響は、現代インターネットの将来のアーキテクチャを脅かす可能性がある。近年、コンピュータ業界の大物は、個人コンピュータからいわゆるクラウド(巨大なサーバにより、人々がファイルにどこからでもアクセスできる)に軸足を移してきた。
スノーデンの暴露により、アメリカを拠点とするサービスへの信頼が損なわれた。これは、クラウド・コンピューティングを利用しているアメリカテクノロジー業界の最大手の一部(グーグルとヤフーを含む)が、NSAに自社データへアクセスさせていたことが明らかになったからである。非アメリカ企業の約10パーセントが、NSAの防諜プログラムが暴露されてから米国のクラウド・プロバイダーとの取引を中止したと、業界団体クラウド・セキュリティ・アライアンスによる調査は示している。
アメリカのクラウド・プロバイダーは、米国政府の監視に対する恐れのため、外国の顧客が自社データを他国のクラウド企業に移行すると、次の3年間に350億ドルもの利益を失う可能性があると、ワシントンD.C.に本拠を置く非党派シンクタンクであるThe Information Technology and Innovation Foundationの研究は述べている。
「もしヨーロッパのクラウド利用者が米国政府を信頼できなければ、彼らはアメリカのクラウド・プロバイダーのことも信頼できないだろう」と、ニーリー・クロー欧州委員(デジタル政策担当)は昨夏、NSA暴露が公になったのちに述べた。「もし私が正しければ、アメリカ企業にとって数十億ユーロの影響が及ぶ。もし私がアメリカのクラウド・プロバイダーだったら、自国政府にすっかり失望しているところだろうね。」
ヨーロッパの政府と企業は、スノーデン暴露に特に悩まされている。というのは、欧州プライバシー法は、米国のものより厳しいからだ。
スノーデン発の文書により、NSAがドイツのメルケル首相の電話を盗聴していたと明らかになってから、アメリカの監視を避けるため、ヨーロッパはアメリカ企業より国内のインターネット企業を奨励するべきだと彼女は語った。ドイツのハンス=ペーター・フリードリヒ内相は、政府の防諜を心配する人はグーグルとFacebookの利用を全部やめるべきだと示唆している。
「自分のコミュニケーションがいかなる形であれ傍受されていると心配する人は、米国のサーバを通さないサービスを利用すべきだ」と、フリードリヒ内相はスノーデンがNSA文書を暴露した後に語った。
Veriday社Chris Lamoureux執行役副社長が、ワールドポストに語ったところによると、NSAからのアクセスがより難しくなるよう、同社顧客の一部が、同社に対して米国拠点のデータデンターに自分の情報を保管するのを避けるように要求したという。
「彼らが言うには、『我々は君に我々のデータを米国には置いてほしくない、今そこで我々が見聞きしているものについて心配しているからだ』」とLamoureux氏は語った。オタワを拠点とする彼の会社は、銀行、政府、小売業者のためのウェブアプリケーションを開発している。
オバマ大統領が、テクノロジー業界の海外でのトラブルを悪化させたという人もいる。彼は、NSAの監視プログラムが米国外の人物に注目していると強調したが、そこには大部分のシリコンバレーの顧客がいる。
「こうした顧客やEU等の外国規制担当局は、アメリカ拠点のサービスを利用することは、"NSAへデータを直接送ることを意味する"と信じるよう仕向けられている」と、ジャーナリストのスティーブン・レヴィはWired誌で書いている。
海外顧客を安心させようと、大手テクノロジー企業(ハフィントン・ポスト・メディアグループを保有するAOLを含む)はオバマ政権に対し、アメリカ政府からの過去のデータの要求にどのように対応したかについてより広く公開する許可を求めている。彼らは、アメリカ政府が知らないうちに自分たちのネットワークをのぞき回ったのだと主張する。スノーデン提供文書にもとづく最近の報告によれば、NSAは世界中のデータセンターをつなぐケーブルを盗聴することにより、グーグルとヤフーの顧客を、企業が知らない状態で調査していたことが明らかになった。
「私の印象では、テクノロジー業界はアメリカ政府と結託している」とケイト氏は言う。「しかし、業界は自分たちもアメリカ政府の被害者であるという印象を与えたいのだ。」
海外テクノロジー企業の一部は、アメリカのテクノロジー企業とその世界中にいる顧客間の疑惑につけ込もうとしている。スイスコムは、スイスのクラウド・プロバイダーだが、ロイター報道によると、同国の厳格なプライバシー法の下でデータを保管し、外国防諜機関の詮索の目から逃れたいと望む顧客にとって魅力的なサービスを開発中だという。
ドイツの三大電子メール・プロバイダーも、「メイド・イン・ドイツの電子メール」と呼ばれる新しいサービスを開発した。これは、同国内に置かれたサーバを通してメッセージを暗号化することにより、NSAを阻止しようと設計されていると、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じた。
しかし、ケイト氏は言う。どんなアメリカのテクノロジー企業をボイコットすることで監視を避けようとする企業でも、実はNSAから自社データを本当に保護していることにはならない、と。スノーデンからの文書によれば、結局のところ、フランスやスペインの諜報機関も自国市民を見張っており、その情報をNSAに渡しているからだ。
「自分のデータをどうにかしようとしても、大して変わりはない―NSAは侵入してくるだろう」とケイト氏は語る。「ただし、それはアメリカのテクノロジー業界がこの先損害を受けないということを意味しない。」
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