The railway workers trained to stop suicides
英国の鉄道では毎日のように自殺をしようとする人がいますが、現在、手遅れになる前に予兆を見つける訓練を受けた鉄道職員が何千人もいます。職員たちが気をつけている予兆とはどんなものなのでしょうか、そして自殺は鉄道網にどんな影響を及ぼしているのでしょうか?
「彼はわたしに胸の内をぶちまけました。生きているのが嫌になった、何もかもが嫌になった、すべて終わりにしたい、今夜それを実行するのだと」
イースト・コースト・トレインでの交代勤務に入って8時間経ったとき、シャロン・ウィレットは10代の少年がプラットフォームのベンチにぽつんと座っているのに気づきました。
少年はフードをすっぽりとかぶり、泣いているようでしたが、顔を隠していたのではっきりとはわかりませんでした。
列車が何本も入っては出ていくのに少年が乗ろうとしないので、ウィレットは心配になりました。このとき、訓練が役に立ったのです。
ウィレットは、少年が履いているスニーカーについて話しかけたり、列車が好きなのかと問いかけたりしましたが、少年は悪態を浴びせたあと泣き崩れました。
それをきっかけに15歳の少年は態度を和らげ、ウィレットは少年が学校でいじめられていることを知りました。そして自分は少年を救うことができると気づいたのです。
ウィレットは、サマリタンズ・プログラムという自殺に関するトレーニングを受けた5000人のスタッフのひとりでした。自殺の前兆を見つけ、自殺の危険のある人を助ける方法を教えるプログラムです。
BBCラジオ5・ライヴが入手した最新のデータによると、2013年の4月から10月の間に鉄道で自殺を図ったと思われる313人が、誰かの介入によって思いとどまりました。
正確な内訳は明らかでありませんが、プログラムを受けた職員によって助けられた人もいれば、普通の職員や鉄道警察官、一般の人などに助けられた人もいるでしょう。
鉄道での自殺は波及効果の大きい問題です。英国の鉄道網のインフラを所有し、この自殺防止プログラムに500万ポンドを投資しているネットワーク・レイル社は、昨年、自殺による混乱の賠償として鉄道会社に3300万ポンドを支払いました。自殺によって乗客がこうむった遅れは5000時間に及びました。
しかしプログラムは単に経費を削減するためのものではないと、鉄道業界の全国自殺防止グループで会長を務めるニール・ヘンリーは言います。
「われわれが考えているのは、会社の業績より人命です」ヘンリーは、大切なのはプログラムが「自殺の減少に効果を発揮している」ことなのだと語ります。
深刻な事態が起きていることを示す兆候のひとつが、プラットフォームに長い時間座り、やってくる列車に乗らないことだとサマリタンズ・プログラムで講師を務めるスティーヴ・トラートンは言います。
もっとわかりやすい兆候もあります。「パジャマやガウン、スリッパ、入院着を着ている人もいます。着ていた服を脱いで丁寧に畳み、プラットフォームの上に置くこともあります」
カギとなるのは会話だとトラートンは言います。
「一度話しだしたら、驚くほど積極的に悩みを打ち明けてくれるようになります。その悩みについて初めてちゃんと話せたという人もいるかもしれません」
プログラムは列車の運転士のためにもなると期待されています。運転していた列車が駅で男性をはねてしまったドン・ステュワートのような経験をする運転士を減らすことになるからです。
「事故後数日ほどは、実感がありませんでした。家で座っていても『自分は仕事を休んでいる、何か悪いことが起こったんだ。自分が考えていることと違うかもしれない。仕事を休んでいる理由は、自分が思っていることと違うかもしれない』と考えているのです」
「自分は人を殺したのだと思いたくなくても、自分が運転していた列車、自分が動かしていたものが、誰かをはねたということには変わりがないのです」
サウス・ウェールズで3年間運転士として働いていたステュワートは、1年間休職しました。二度と運転をしなくなった人もいます。
罪の意識は耐え難いものだとトラートンは言います。「特に運転士は罪悪感を抱いたり責任を感じたりすることが多いです。辛い感情が引き起こされ、その光景を忘れられなくなるのです」
ネットワーク・レイル社の従業員らの努力にもかかわらず、自殺は英国の鉄道にとって相変わらず深刻な問題です。
2012年は238人が列車に飛びこんで亡くなりました。2010年と比べて20パーセントの増加です。
「自殺は増加しています。これは全国的な、社会全体の傾向です」ヘンリーは言います。
「正確な判断のために付け加えると、2013年11月上旬には7日間連続でまったく自殺がありませんでした。これだけの期間自殺がなかったのは、2010年以来初めてのことです」
トレーニング・プログラムは重要であるとヘンリーは言います。なぜなら「どのように相手に接すればよいか、何を言うべきで何を言うべきでないか、自信を持つことができる」からです。
少年のあとにも別の人の自殺を思いとどまらせたウィレットは言います。「感情を表に出し、悩みや問題を吐き出してもらえるよう、適切なきっかけを見つけさえすればいいのです」
「そしてその人が話しだしたら、状況は改善します。そうすれば安全な場所に誘導するという次の段階に進むことができます」
駅のベンチで座っていた10代の少年にとって、自分の悩みを誰かに打ち明けたのは、ウィレットが初めてでした。
「時には友だちや家族ではなく、知らない人に悩みを打ち明けることもあります」ウィレットは言います。「でもそれはあの少年が正しい道にたどり着く最初の一歩でした。そして今彼は、ずっとよい場所にたどり着いています」
少年に会った3週間後、ウィレットは少年の母親から手紙を受け取りました。
「あなたとの出会い、言葉、そして思いやりが息子の命を、そしてわたしたちの命を、確かに救ってくれました。息子が人生の新たな章を始めることができるのは、あなたのおかげです。ありがとうという言葉では足りません。わたしたち家族にとってあなたは天使です。本物の天使なのです」
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