厳しい財政事情の中、さまざまな工夫を凝らして運営されている全国の公共図書館。その多くは限られた予算の中で増大する利用者のニーズに応えようと頭を悩ませている。
とりわけ、公共図書館が対応に苦慮している問題が、「人気図書の貸出予約」だ。各地の公共図書館では、ベストセラーになった書籍の貸出予約が殺到し、1冊の予約件数が数百件、多いもので2000件近くに及ぶものもあり、貸出までに1年以上かかるケースも増えている。
増大する一方の貸出予約に苦慮する公共図書館の対応にかねてから疑問を呈しているのが、作家の万城目学氏である。万城目氏の著作も、常に貸し出し予約が殺到する。万城目氏はTwitterで次のように述べている。
万城目氏のツイートで指摘されてる通り、最近、公共図書館の館内掲示やホームページに「図書寄贈のお願い」が目立つようになってきた。福井県立図書館では、次のような「お願い」を掲示している。
福井県立図書館では、予約が集中して多くの方が順番待ちをしている本について、皆様からの寄贈をお願いしています。
ご家庭で読み終わられてご不要になった本を寄贈していただける方は、図書館にご来館の折にカウンターにお持ちください。
(福井県立図書館「人気図書寄贈のお願い」12月6日現在)
寄贈のお願いとともに、図書館側が寄贈を希望する書籍のリストには、人気作家のベストセラー作品がズラリと並ぶ。こうした予約が集中する人気書籍を寄贈によって賄う動きは、全国の公立図書館に広がっている。
図書館が寄贈を求めるのは、こうした「予約が集中するベストセラーや話題の図書」か、「入手が難しい郷土資料」である場合が多い。後者の場合は寄贈に頼るのも致し方ないが、ベストセラー本の貸出需要を寄贈で補う姿勢には賛否両論がある。
しかし、図書館が寄贈に頼るのは言わば苦肉の策といえる。日本図書館協会の調査『日本の図書館』で、2002年と2012年の統計値を比較してみると、この10年間で、図書館数は増加し利用者の予約件数は4倍近くに達しているが、図書購入などに費用の資料費は減少している現状が窺える。
2002年
図書館数 2711館
資料費 353億9420万円
予約件数 2238万8691件
2012年
図書館数 3234館
資料費 289億4189万円
予約件数 9102万6000件
(日本図書館協会「日本の図書館統計」より)
万城目氏による図書館の寄贈お願いへの疑問に対して、Twitter上ではさまざまな意見が展開された。
一方で、図書館側ではなく、利用者側の姿勢を問うツイートもあった。
また、図書館関係者からのツイートを見ると、寄贈に頼ることに逡巡する、図書館の現場の複雑な事情が伺える。
図書館で読みたい本が読めない、という利用者側の不満を解消するために、図書館側では、寄贈に頼らないアプローチも見られる。東京都の千代田区立千代田図書館では、利用者に対して近隣の書店へ案内を行う「図書館コンシェルジェ」サービスを行っている。ただし、千代田区立千代田図書館のケースは、「本の街」神保町に隣接しているという立地条件下だからこそ可能であり、書店数の減少が続く現状で、このようなサービスを行うことが可能な公共図書館は限られていると言っていいだろう。
図書館への貸出予約集中と寄贈の問題は、図書館のあり方そのものへの問いかけとつながる。図書館は利用者のニーズにどこまで対応すべきか。利用者は図書館を「無料貸本屋」扱いにせず、本当に読みたい本は書店で購入すべきなのか。みなさんのご意見をお寄せください。