「PTSD(心的外傷後ストレス障害)になったアクション・マン」。付属品として、松葉杖や抗鬱剤、酒瓶、ドラッグなどが付いている。
松葉杖や車椅子、遺体袋まで添えられているのは、これまでスポットライトが当たってこなかった戦争の英雄たちだ。
『Battlefield Casualties』(戦争の犠牲者たち)と名付けられたこの3つの「アクション・フィギュア」は、アーティストのダレン・カレン氏が行っている、風刺的な新兵募集反対プロジェクトを構成する一部だ。
これらのフィギュアは、カレン氏のコミック『(Don’t) Join The Army』[陸軍への入隊(をやめろ)]に含まれるポスターに登場している。そして、次のような問いを投げかけている。「なぜ若者たちは、手足や命を失うかもしれないのに、アフガニスタンやイラクでの10年近くにわたる戦争に志願したがるのだろうか」
「下半身麻痺になったアクション・マン」
カレン氏は英ハフィントン・ポストに対して、次のように語った。「神経科学に基づくマーケティング専門家がよく話すのは、『初期刷り込み』、つまり、ある商品の初めての体験は、それに対する一生を通じた見方に大きな影響を与えるということだ。だから陸軍は、独自のおもちゃを取り揃えている。武力紛争が、楽しさと冒険にあふれた有益な体験だと子供たちに示しているのだ」
「しかし現実には、戦争は地獄だ。もし幸いにも手足や臓器が無傷で帰れたとしても、多くの場合は深刻な心的外傷(トラウマ)と戦うことになる」
カレン氏の『Battlefield Casualties』は、現在販売されているミリタリー・フィギュア・シリーズ『HM Armed Forces』に対する対抗手段を目指すものだ。
カレン氏のプロジェクトは、好意的に引き受けてくれる会社が見つかるまでに、「道徳的および政治的な立場から」3つの印刷会社に拒否されたという。
「死んだアクション・マン」(付属品として、勲章と英国国旗、死体袋とそのタグ等が付いている)
カレン氏は、英国の極右政治団体「イングランド防衛同盟(EDL)」の支持者の一部からも怒りを買ったが、「おかげで自分が正しいことをしていると思えるようになった」と皮肉っている。
「ただし彼らが…そしてほかの人々もそうだと思うが…この件について誤解しているのは、私は兵士たちを非難しているわけではないということだ。私が非難しているのは、兵士たちを利用している組織だ。それらの組織は、政治的や経済的な目標を達成するために兵士たちを利用し、殺させたり、殺されたりさせている」
痛烈な内容であるにもかかわらず、このコミックは数人の元兵士からも支持されている。そのひとりはジョー・グレントン氏だ。彼は、「法的および道徳的立場から」アフガニスタンに戻ることを拒否した初めての英兵で、『 Soldier Box』の著者でもある。同氏はこのコミックについて、「野蛮だが真実だ」と述べている。
1997年から2005年まで英陸軍に服役したベン・グリフィンも支持者のひとりだ。同氏は、第2パラシュート部隊(2 PARA)の一員として北アイルランド、マケドニア、旧ユーゴスラビア共和国、アフガニスタンに、特殊空挺部隊(SAS)の一員としてイラクに派遣され、現在は「Veterans For Peace UK」(平和な英国を目指す退役軍人会)のコーディネーターを務めている。
「この作品は、英国のメディアが広めているナンセンスな英雄像に真っ向から対決するものだ。この作品の誠実さとユーモアによって、作品が提示する大切な問題について、人々がもっと自由に発言できるようになればいいと思う」と、グリフィン氏は語っている。
屏風のように折り畳まれたこのコミック本は、広げると1.5mの長さになり、ちょうどバイユーのタペストリー(1066年のノルマンディー公によるイングランド征服を伝える刺繍画)のような形で、イラク戦争を表現している。
コミックにはデラックス版もあり、12ページの追加ミニコミック、陸軍に関するパンフレット、『Battlefield Casualtiesアクションマン』のポスター、ハガキやステッカーも付いている。
[Sara C Nelson(English) 日本語版:平井眞弓/ガリレオ]