7月に発売された『里山資本主義 —日本経済は安心の原理」で動く』(角川oneテーマ21)が反響を呼んでいる。発売3ヶ月で16万部を突破。3年前にベストセラーとなった『デフレの正体』の著者、地域エコノミストの藻谷浩介氏とNHK広島取材班による共著である。作家の佐藤優さんや歌手の加藤登紀子さんなどの有識者が推薦。首都圏だけでなく本の舞台となった中国山地など全国で売れているという。
「里山資本主義」とは、お金の循環がすべてを決するという前提で構築された「マネー資本主義」の経済システムの横に、こっそりとお金に依存しないサブシステムを再構築しておこうとする考え方だ。
この「里山資本主義」の事例として、中国山地で行われている林業再生の取り組みを紹介している。
戦後、衰退の一途を辿った日本の林業。そんななか製材業界で新しい試みをしているのが、岡山県真庭市の銘建工業だ。代表取締役社長の中島浩一郎さんは、日本に先駆けて1997年に「木質バイオマス発電」の導入。製材課程で出る4万トンの木くずを燃料にして、工場で使用する電気のほぼ100%をまかなっているという。今まで電力会社に払っていた電気代がなくなり、さらに夜間電力を売る売電収入がうまれた。また、産業廃棄物だった木くずの処理にかかっていた年間2億4000万円がゼロになり、トータルでは数億円のプラスになった。銘建工業がバイオマス発電の導入から14年。発電施設の建設にかかった10億円は早々に減価償却し、十分に元をとっているという。
この事例をうけて、藻谷氏は「このような事例を『マネー資本主義』の下では条件不利とみなされてきた過疎地域にこそ、つまり人口辺りの自然エネルギー量が大きく前近代からの資産が不稼働のままに残されてる地域にこそ、より大きな可能性がある」と分析。「マネー資本主義の評価指標、GDPや経済成長率を必ずしも大きくするものではない」が、「金銭換算できない活動が、見えないところで盛んになって、お金に換算できない幸せを増やす」という。
本書では、地域振興、社会保障、少子化といった日本が抱える課題の「里山資本主義」による解決策も紹介している。
KADOKAWAの担当は「それぞれの事例を、他の地域にも応用できるモデルにしたことで、全国で地域再生に取り組んでいる人からも『教科書に使える』という声が届いています。本で紹介したエコストーブや地域通貨など、人によって響くポイントが違いますが、今までジャンル別に考えられていた課題を、日本の社会、経済という大きな視点でまとめたことが、大きな反響につながっているだと思います」と話す。東京や大阪といった大都市を除く全国の知事に献本したところ、10県以上の知事からお礼の手紙や葉書が届いたという。
東日本大震災をきっかけに、お金があってもシステムやネットワークが破綻すれば、水や食料、電気が手に入らないことに不安を抱いた人も多いだろう。お金だけに頼らない新しいモデル「里山資本主義」がヒントとなるかもしれない。
※「里山資本主義」が反響を呼んでいます。「マネー資本主義」の経済システムの横に、お金に依存しないサブシステムを作ることについて、どう思いますか?
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