復興法人税廃止が議論されても、復興特別所得税が議論されない理由とは【争点:アベノミクス】

安倍首相が検討を指示したとされる復興特別法人税の前倒し廃止議論に反対意見が続出している。何故復興法人税の議論が出てきたのか。また、何故復興特別所得税の議論はされないのだろうか。
Shinzo Abe, Japan's prime minister, visits the trading floor at the New York Stock Exchange (NYSE) in New York, U.S., on Wednesday, Sept. 25, 2013. Abe's pledge to end 15 years of deflation and the Bank of Japan's monetary policy easing, along with Tokyo's winning bid to host the 2020 Olympic Games have helped boost consumer sentiment. Photographer: Scott Eells/Bloomberg via Getty Images
Shinzo Abe, Japan's prime minister, visits the trading floor at the New York Stock Exchange (NYSE) in New York, U.S., on Wednesday, Sept. 25, 2013. Abe's pledge to end 15 years of deflation and the Bank of Japan's monetary policy easing, along with Tokyo's winning bid to host the 2020 Olympic Games have helped boost consumer sentiment. Photographer: Scott Eells/Bloomberg via Getty Images
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自民・公明両党は9月30日、復興財源確保の名目で2014年度まで法人税に上乗せしている「復興特別法人税」を、成長戦略のために1年前倒しして廃止するべきか結論を出す見込みだ。29日夜に開かれた与党税制協議会では「代わりの復興財源を確実に確保できるのか」などの反対意見が出たため、議論が持ち越された。両党は30日午後に協議会を開き、決着を目指す。時事ドットコムが報じた。

■法人税引き下げを望む声

安倍首相は10月1日午後6時に記者会見を行い、成長戦略を強化する経済対策を発表する予定だ。現在議論されている経済政策の内容としては、企業の設備投資促進や、ベンチャー投資の促進の他に、法人税の引き下げがあるとされている。

法人税の引き下げは、企業の税負担を軽減して賃上げや雇用の拡大につなげることが狙いとされている。安倍首相は24日に「企業の活力を維持することで、必ず賃金に反映されるようにしていく。その観点から法人税をどう考えるかということになる」と述べ、法人税と賃上げをセットで議論する考えを明らかにしていた。

政府税制調査会の委員の1人、大田弘子政策研究大学院大学教授(元経済財政担当相)は、経済政策の一つとされている投資減税より「法人税率の引き下げのほうが重要」との考えを述べている。大田教授の考えの背景にある状況について、ロイターは次のように分析している。

日本の法人実効税率は35%程度と、米国の約41%に比べると低いが、フランスの約33%、ドイツの約30%に比べ高止まりしている。英国は現在23%だが、2015年4月からは欧米主要国で最低水準の20%に引き下げるなど、各国での法人税引き下げの動きも活発化している。日本では、これに14年度末まで復興特別法人税が加算されており、外国企業の誘致を進めるためにも、財界からは法人実効税率の引き下げを求める声が強い。

(ロイター「インタビュー:法人実効税率下げを提言=大田元経済財政相」より。 2013/06/25 14:22)

■何故、「復興特別法人税」がターゲットになったのか

法人税引き下げについては、反対意見も多い。その一つが、「法人税を下げても効果が期待できない」というものだ。麻生太郎財務相は8月15日、法人税を納めている企業が3割程度にとどまっていることに言及し、「今の段階で法人税率を引き下げて直ちに効果がある、というのは少ない」と話している。麻生財務相は9月27日に、法人税減税は中長期的課題だと認めながらも、法人税1%の引き下げで4000億円程度の税収が減少することも指摘。「代わりになる財源が出てこないといけない」と述べた

これらの法人税引き下げに反対意見が出るなか、法人税の中でも3年という時間制限のある「復興特別法人税」の分だけ、先に引き下げようとする動きが出てきたとMSN産経ニュースは報じている。

厳しい財政事情の中、税率引き下げを決めるには相当、議論に時間がかかる。そこで、復興増税分を前倒しで廃止することで、税率を下げるという近道を探る案として政府内で浮上した。実現すれば、現在、地方分を含めた日本の法人税の実効税率38.01%(東京都)は26年度に35.64%に下がる。

(MSN産経ニュース「「復興特別法人税」Q&A 廃止前倒し論はなぜ起きた?」より。2013/09/24 22:41)

■「復興特別法人税」前倒し廃止への反対の声

しかし、「法人税がダメなら復興特別法人税から」という経緯が、復興の加速を願う人々に受け入れられるわけがない。震災以降、何度も被災地に足を運んでいる小泉進次郎衆議院議員は、復興法人税の前倒し廃止に関する議論について次のように話したという。

「もう、この問題が、議論が出た時点で、被災地のみなさんはいい思いはしていないと思いますよ。これが決着がどうなろうと。ですから、仮に前倒しで廃止をする、もしくはそうではない、やはり元通りと、どちらのケースになっても必要なのは、復興に対する決意を疑われてはいけない。予算も増やして、復興庁の体制も変えて、自民党になって復興は加速するといってきたことを、そのまま形に表すしかないと思いますね」

(MSN産経ニュース「復興特別法人税前倒し廃止に「被災地のみなさんはいい思いしていないと思うよ」」より。 2013.9.29 12:00)

また、公明党の斉藤鉄夫税調会長は29日の与党税制協議会の席で、「復興増税が法人税、所得税、住民税などあるなかで、なぜ法人税だけが前倒し廃止なのか。また、法人の負担軽減が賃金上昇につながるか、国民に納得いく説明が必要だ」と指摘している。

■「復興特別法人税」の議論は出るのに「復興特別所得税」の議論が出ない理由は?

斎藤氏の指摘するとおり、復興財源には復興法人税以外にも「復興所得税」などが存在する。復興所得税については、サラリーマンであれば2013年1月1日から25年間、税額の2.1%分が源泉徴収により天引きされている。

消費税が上がるかもしれないとの見方もある中で、法人税ばかりが引き下げられ、何故家計の負担はそのままなのか。嘉悦大学の高橋洋一教授は9月18日に出演したラジオ番組において「今まで経団連を消費増税の味方につけるために、法人税減税をチラチラ言ってきた」と指摘している。高橋教授は、海外の法人税引き下げの事例を下記のように述べ、法人税減税と消費増税は、関係ないと話している。

各国で法人税減税が行われているが、そのロジックは、個人の段階で税を捕捉することをきちっとやるため、法人税は二重課税になるため取らないというものだ。そのために必要なのが歳入庁や、番号制。消費税と法人税の引き下げをセットで考える国はない。

(YouTube「2013/09/18 ザ・ボイス 高橋洋一 ニュース解説「安倍総理 法人税引き下げについて言及」「政府 消費税増税引き上げ時に 一人1万円を給付へ」など」より。 2013/09/18)

なお、経団連の米倉弘昌会長は「消費税を上げて法人税を下げるのは企業優遇との批判にも「企業業績が高まれば雇用も上がり賃金水準も上がってくる」と話している

■「復興特別法人税」が前倒しで廃止された時の財源は?

もし「復興法人税」が前倒しで撤廃された場合、復興財源はどうなるのか。伊吹文明衆議院議長は28日に放送されたテレビ番組において、建設国債で手当する考えを示している。建設国債には60年償還ルールが有り、60年かけて幅広い世代から、返済をしていくことになる。

■またもやお得意の「議論先送り」か?

しかし、「復興法人税の前倒し廃止をすべきか」という議論は、またもや先送りになりそうだ。テレ朝newsは甘利経済再生担当大臣が、結論を年末まで先送りする見通しを示したと報じている。

甘利経済再生担当大臣:「(復興特別法人税の廃止を)これこれこういう手続きを取って12月に実施する、12月に実施を決める、という書き方になると」

(「甘利大臣「年末に先送り」 復興特別法人税の廃止」より。 2013/09/30 01:03)

安倍首相はどのような経済政策を示すのか。また、各社が報じている「消費増税」を本当に発表するのか。10月1日は見逃せない会見になりそうだ。

復興特別法人税の前倒し廃止を、経済政策に盛り込むべきだと思いますか?あなたの考えをお寄せ下さい。

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