「あまちゃん」と「半沢直樹」の違いとは? 9月28日に最終回「あまロス症候群」その傾向と対策

日本列島にブームを巻き起こしているNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」が9月28日、ついに最終回を迎える。当日は各地で最終回を一緒に盛り上がるイベントが企画されている一方、毎日ドラマを楽しみにしてきたファンの間では、放送が終了してしまう喪失感による「あまロス症候群」も懸念されている。「あまちゃん」とは何だったのかを振り返りながら、やがて私たちに必ず訪れるであろう「あまロス」にどう備えるべきなのかを模索する。
猪谷千香

日本列島にブームを巻き起こしているNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」が9月28日、ついに最終回を迎える。当日は各地で最終回を一緒に盛り上がるイベントが企画されている一方、毎日ドラマを楽しみにしてきたファンの間では、放送が終了してしまう喪失感による「あまロス症候群」も懸念されている。「あまちゃん」とは何だったのかを振り返りながら、やがて私たちに必ず訪れるであろう「あまロス」にどう備えるべきなのかを模索する。

■ソーシャルメディアで「体験」を共有してきたファン

9月21日、残すところ1週間の予告が放送されると、「最終週」の文字ですでに泣く人がtwitterで続出した。「あまちゃん」は、なぜここまで私たちの心に響くのだろうか?

「毎日という定時的な接触が視聴者とコンテンツの“近さ”をもたらしていると考えます」と話すのは、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の上席研究員、加藤薫さん。

「ドラマは週1回放送がスタンダードで、毎日放送されるものはあまりありません。あまちゃんの場合は、コンテンツの内容と毎日のオンエアというスタイルがマッチしたのではないでしょうか。そのグルーヴ感がtwitterなどのソーシャルメディアと組み合わさり、単純なメディアとの“接触”だけでなく、“体験”と呼んでいいレベルに高まったことが特徴的です」

「あまちゃん」のファンは毎日ドラマを視聴しながら、twitterでリアルタイムに感想や脚本の宮藤官九郎さんが仕掛けてきたネタの解読をツイート、ハッシュタグを用いてさまざまなブームを自ら生み出してきた。

例えば、ファンの間では放送される枠によって「あまちゃん」の呼び方が違っている。午前7時半(BS)は「早あま」、午前8時(総合)は「朝あま」、午後12時45分(総合)は「昼あま」、午後11時(BS)からは「夜あま」となる。これに加え、一週間のダイジェストが見られる土曜日9時半は「週あま」、録画して見るのは「録あま」と呼ばれる。

その日の印象的なシーンをプロの漫画家やイラストレーターからアマチュアまで、思い思いに描いてtwitterやfacebookにアップする「#あま絵」も流行。「あま絵」人気が高じて、8月27日には「あまちゃん」ファンの作家たちによる『あまちゃんファンブック おら、「あまちゃん」が大好きだ!』(扶桑社)も発売され、ベストセラーになっている。

松田龍平さんが演じる水口琢磨こと「ミズタク」が女性に大人気となると、ミズタクについてツイートする「#ミズタク俺の部屋祭り」という“祭り”や、ミズタクが登場しない回が続くと深刻な「ミズ不足」に嘆く声が聞かれた。ミズタクが主人公のアキを抱きしめるシーンは、「ミズハグ」と呼ばれる名場面となり、ファンを湧かせた。

ネットで増幅するファンをさらに喜ばせていたのが、NHKの「あまちゃん」公式サイトだ。劇中に登場する「北三陸市観光協会」「GMT」のホームページをサイト内に開設するなどかつてない細かい仕掛けが満載。LINEの「あまちゃん」公式アカウントでも放送やイベントの情報、ドラマ出演者の他番組への出演情報などを積極的に流した。

加藤さんは、「全体的な流れを見ていると、一番最初に視聴していたコアなファンたちがソーシャルメディア上で活動する層だったことが大きいと思います。そうしたファンを見た新規の視聴者が東京編から流入し、雪だるま式に盛り上がってきた。これは、他のコンテンツに比べるとアニメの盛り上がりに近い。ネタが多いのが『あまちゃん』の特性で、アニメファンからも『あまちゃんはアニメっぽくて面白い』という声が聞かれました」と分析する。

■「あまちゃん」と「半沢直樹」はどう違う?

「あまちゃん」と同時期にTBS系列で放送されたドラマ「半沢直樹」も9月22日に最終回を迎え、平成のドラマとしては史上最高となる視聴率40%超を叩きだした。「あまちゃん」の平均視聴率は20%台と現在、「半沢直樹」には追いついていないが、「あまちゃん」はファンのイベントやオフ会が盛んに開催されるなど、その盛り上がりはむしろ勝っているように思える。似て非なる人気ドラマ、「あまちゃん」と「半沢直樹」はどう違うのだろうか?

評論家で批評誌「PLANETS」編集長、宇野常寛さんはこう指摘する。

「『半沢直樹』が前提にしているのは日本の半分だと思うんです。昭和の日本の延長線上にある、大企業のドラマにリアリティを感じる人たちです。しかし、今の20代はベンチャー企業に務めて年俸制、フレックスで働き、スーツも着たことがなく、転職も経験している人が多いはず。そういう人たちが『半沢直樹』を見ても、まあ、顔芝居の激しいネタドラマとしては面白かったと思いますが、サラリーマンものとしてのリアリティはあまりなかったと思います。だからこそ制作者も漫画的に仕上げたのでしょうが、ここには今のテレビ的な想像力がターゲッティングできる限界がアラフォー世代である、という現実が露呈しているように思えます」

一方、『あまちゃん』はなぜファンの共感を呼ぶのだろうか?

「その点『あまちゃん』はテレビ世代の中高年と、ネット世代の若者をうまくつなごうとしているように思う。たとえば昔ながらの「朝ドラ」よろしく戦後日本での女性の生き方を描きながら、インターネットのカルチャーやアイドルブームも描いている。主人公のアキはエセ東北人で、実は地元を持っていない。地域の伝統が弱くなっていて、心の拠りどころは『土地より人』という言葉にもあるように非常に現代的。『あまちゃん』は昔の世界と新しい世界が共存していて、多重な構造になっています。

物語自体も、夏と春子、春子とアキという親子関係、つまり古いものと新しいものをつないでいるのがテーマだと思っています。他にも、GMTは朝ドラのヒロインが各県の代表として地元をアピールするという比喩でもあり、同時にAKB48以下のアイドルブームの取り込みでもある。そういうものを出すことによって、古いものと新しいものに断絶してしまっている今の日本を包摂しているように見えます。『あまちゃん』は古い世界である視聴率ではそこそこ盛り上がりつつ、新しい世界であるネットでも盛り上がっているところが面白いです」

NHKスタジオパークで開催中の「連続テレビ小説『あまちゃん』じぇじぇじぇ~展 Part3」

■達人に聞く「あまロス」の傾向と対策

9月28日にはいよいよ、最終回を迎える。放送終了後に訪れる「あまロス」を心配するファンは少なくない。PTSD(心的外傷後ストレス障害)をもじって、「PASD」つまり「あまちゃん後ストレス障害」(Post Ama-Chan Stress Disorder)という言葉もネットで盛んに言われている。最終回以降、私たちは「あまちゃん」の喪失とどう向き合えばよいのだろうか。その対策を「あまちゃん」の達人に聞いてみた。

まず、加藤さんは、「視聴者のパワーはあまちゃん語りや二次創作、イベントなど関連消費行動に向かっていくと考えられます」とみる。

「例えば、最終回の日にはお台場の東京カルチャーカルチャーでは『あまちゃんファン大集会 スナック梨明日 お台場店』というファンイベントが開かれます。東京・渋谷のNHKスタジオパークでも、ドラマのセットや衣装を展示する「連続テレビ小説『あまちゃん』じぇじぇじぇ~展 Part3」が開催中です。また、あまちゃんは楽曲にみちあふれているコンテンツなので、そのコンサートだけでもファンは喜んで出かけるのではないでしょうか」

最終週の予告を見て泣いてしまったという加藤さん自身の対策としては、「あまちゃんのサントラCDを買いましたが、今聞くともったいないので、放送終了後に楽しみたいと思っています」とのことだ。

また、9月28日午後7時から、宇野さんはアイドル評論家の中森明夫さんとの番組「『あまちゃん』最終回当日公開対論 中森明夫×宇野常寛 『あまちゃん』を語りつくす!」をネットで無料生放送。10月29日には、中森さんとの対談や人気のイラストレーターや漫画家による名場面の「あま絵」などが掲載される「PLANETS」編集の本「あまちゃんメモリーズ」(文藝春秋)も発売される。

あまロス対策として、「このあまちゃん本を読むのも良いです(笑)」と前置きしつつ、宇野さんがおすすめするのは、宮藤さんのこれまでの作品を鑑賞することだという。

「『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』『マンハッタンラブストーリー』など、当時、クドカンのドラマがすごいと書いたらバカにされましたが、今なら当時は“知る人ぞ知る”だった良さもわかってもらえるはずです。『マンハッタン-』には、春子ママの小泉今日子がヒロイン役で、正宗パパの尾美としのりがその同僚で出演しているところに、ニヤリとしたり。『-キャッツアイ』は学校の先生役の薬師丸ひろ子がコメディエンヌとして注目されるようになった作品だったり。あまちゃんのルーツを探してみるのも、良いかもしれません」

■あまちゃんファン、それぞれの対策

この他、あまちゃんファンにそれぞれの「あまロス」対策を聞いてみた。

「あまちゃん好きの人たちと反芻しながら思い出を噛み締めるトークをし続けることですかねえ。あとは二次創作的に『今後こうなるはず!』とか『あの時裏ではこうなっていたのではないか?』という考察とかサイドストーリーとか、あま絵とかネットに出てないかなーって結構チェックするんじゃないかと思います」

「妄想で過ごします あとTOMIXの三陸鉄道36形のNゲージを小学生の時買ったことを思い出したので、復興列車仕様に改造しようかな…」

「しばらくあまちゃん関わるちょっとしたものを、あまちゃんDVDをスピンさせながら作っていようと思います。同人誌とかコスプレとか」

「『あまちゃん』で北三陸の風土や文化に興味を持った。震災に関しても自分なりに支援を行い、後世へ語り継いでいかなければと思いをあらたにした。秋にはゆっくりと北三陸へ出かけ、ロケ地めぐりや秋の味覚を楽しみたい」

「ファンのブログはしばらく更新されるんじゃないかと思うので、サイトをチェックしながら、余韻に浸って楽しもうと思っています。そして密やかに、映画化、あるいは続編、あるいはスペシャル版のドラマを待ちます。それと、今回のあまちゃんでようやく被災地を見に行く勇気が湧いてきたので、時間をとって1日2日でもいいから行ってこようと思います」

「心の赴くままに、語りたくなったらこういう場で語る、聞いてもらう。現場に行ってみる、近くに行ったら懐かしむ。そういうことになるでしょうね」

「当面はあまちゃんに没頭する。そっから先はまあそれぞれ………ということで」

■最終回後も楽しめる「あまちゃん」は?

最終回を迎えても、しばらくは「あまちゃん」関連のイベントは続く。東京・渋谷のNHKスタジオパークで10月20日まで、「連続テレビ小説『あまちゃん』じぇじぇじぇ~展 Part3」が開催中だが、最終回後には展示替えが行われるとのこと。10月14日には3時間にわたる総集編(総合)が放送される。

岩手県のアンテナショップ、東京・銀座の「いわて銀座プラザ」のイベント「いわて銀河プラザ15周年祭」では、久慈観光物産展(10月14日~10月15日)や、あまちゃんの衣装を着て海女さんになりきることができる撮影会(10月14日、10月20日)が開かれる。

東京都写真美術館で開かれるアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)」では、10月27日に行われるワークショップの講師に「あまちゃん」のチーフプロデューサー、訓覇圭さんを招き、大ヒットドラマの裏側が語られる。

もしも、聖地巡礼をするのなら、ドラマの舞台となった岩手県久慈市の久慈広域観光協議会が作成した「あまちゃんロケ地マップ」を手にお出かけしてみては。

あなたの「あまロス」対策は万全ですか?「あまちゃん」があなたにもたらしたものをお聞かせください。

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