解雇特区にブラック企業は存続できない?組合のある大企業の方がブラックになりやすいから?【争点:アベノミクス】

政府が検討をすすめている「雇用の流動化を促す特区(雇用特区)」には「解雇特区」や「ブラック企業特区」との批判もありますが、「雇用特区にはブラック企業の存在はムリ」とする反論意見も出ています。どのような内容でしょうか。

政府が検討をすすめている「雇用の流動化を促す特区(雇用特区)」について、「解雇しやすい特区(解雇特区)」になるとの見方もあるとの記事を紹介したところ、「解雇のしやすさよりも転職の容易さを追求すればブラック企業は存続できない」とのコメントが投稿された。「退職金」などの制度を変えればブラック企業に留まっている理由がなくなり、何度転職しても不利にならない特区になるのではないかとの意見だ。murawskさんは冒頭に紹介したコメントのように、

人材の流動化を図るのであれば、解雇のし易さより、転職の容易さを追求するべきでしょう。

現状では、転職すると退職金が不利になったりしますので、そういう面を手当てする事により、何度転職しても不利にならない特区を作れば、ブラック企業は従業員を失い、存続できなくなるでしょう。

雇用特区は「国家戦略特区」案の一つで、労働者に一定の金額の報酬を支払えば、労働時間の縛りを無くしたり、企業の判断で従業員を解雇しやすくするとされる。そのため「残業代ゼロ」の点を指摘して「ブラック企業特区になるのでは?」という指摘も存在する。

いっぽう、Magorilさんは、特区においては契約条件があることを指摘し、「納得出来ないのなら契約しなければ良い」「いつでも雇用契約を破棄して退職できる」と述べている。

被雇用者は契約内容が納得できなければ契約をしなければいいのです。

従業員となってからも、いつでも雇用契約を破棄して退職することができますしね。

同様に、雇用主側も期間を定めていない雇用契約はいつでも破棄できるようにすべきと思っています。

契約に関しては、人事コンサルティング企業の代表を務める城繁幸氏も「(ブラック企業は)契約というガラス張りのようなカルチャーとはきわめて相性が悪い」と分析する。というのも、ブラック企業は労使協定の名のもとに「合法的に存在する」ためだという。

城氏は、就職人気企業225社のうち60.8%の企業が、国の過労死基準を超える時間外労働を命じることができる労使協定を締結しているというデータを元に、「組合のある企業はたいてい、労使で年1000時間以上の残業が可能なように取りきめている」と指摘する。

立派な労組のある他の大企業が組合員を過労死基準オーバーで働かせる協定を作る一方、労組すらないユニクロがそれより少ない残業時間に抑えようとつとめているのは、なんとも皮肉な話だ。だがそれこそこの問題の本質をあらわしている。

“ブラック企業”とは労使の共同作品のようなものなのだ。

(城繁幸氏ブログ「実はブラック企業の大半は合法であり、ユニクロは優良企業であるという現実」より。 2013/05/02 11:00)

では、特区ではどのような契約条件が考えられるのか。ichitaro xyzさんは具体例を上げてコメントしている。

本当にやるべき政策は、労働法制の規制緩和、特に金銭的補償による解雇である。

具体的には、千人以上の企業グループ(いわゆる大企業)に20年以上継続して正規雇用され、入社から累計額が2億円を超える報酬(給与・賞与)を受けた正規労働者については、企業は、会社都合による退職金に加えて24ヶ月基本給の割増退職金、そして企業年金を現在価値に換算したものを一括で支払うことによって自由に解雇できる、といったものだ。

これに対して、大体二通りの批判がなされることが多い。一つは、当事者が可哀相だとする批判、もう一つは、雇用不安を駆り立て、結局デフレ脱却につながらないとの批判だ。

だが、その批判は的外れだ。既に述べているとおり、生涯賃金2億円に割増退職金までつけている。大企業の正規労働者なら、社費で数多くの職業訓練を受け、多くの人脈も持ち、さらに自己研鑽に投入するだけの金も時間もあったはずである。こうした人材を退出させるのが残酷だと思わない。非正規雇用者と比較して、これほど恵まれていたのだから、もう甘えるべきではない。

また、SpookyActionさんはアメリカの例をあげ、「能力不足を理由に解雇される人は解雇事例全体の1%もないのではないか」と述べている。

この手の記事に対するコメントを見ていて思うのは、解雇される人=能力のない人、という見方をする人が多いことですが、現実にはそういうケースは少ないと思います。

アメリカでは雇用はほとんどがAt Will(退職および解雇自由の原則)で解雇は日常茶飯事ですが、ほとんどが経営不振に由来する整理解雇であり、能力不足を理由に解雇される人は解雇事例全体の1%もないのではないかという印象です。

不採算部門は全員解雇なんてことはよくある話で、ある分野で能力があってもその分野が会社にとって不要となれば、解雇されます。

整理解雇において能力は考慮はされますが、それ以上にその時点で必要な社員を残し不要な社員は解雇と考え方のほうが優先されます(能力がある=会社にとって必要、というわけではない)。

SpookyActionさんの例が正しいとするならば、「儲けられる会社」の存在がキーになってくると考えられる。しかし、儲けられる企業であっても、なかなか人材を正社員として採用しにくいとする意見もある。「連続5年を越えて働いた有期雇用労働者が申請すれば、会社はその人を無期雇用にしなければならない」とする改正労働契約法があるためだ。

このため、資金力のある大企業にどうしても人材が流れてしまうという指摘もある。

人材は、大手企業に囲い込まれていて、流動性が低い。

有能な人材が終身雇用の職場の大企業に囲い込まれたり、大企業から飛び出せない原因の一つは、現行法では、有期雇用の自由な再契約が認められていないことにある。すなわち、一定期間を経過した有期雇用は、終身雇用に切り替えない限り、打ち切りにすることを雇用者に義務付けていることにある。

たとえば、山中伸弥教授の再生医療研究所で研究者が雇用の不安定性に晒されている。イノベーションを促進する人材流動化のためには、少なくとも最先端の研究機関では、有期雇用の自由な再契約を可能とする制度改革を行う必要がある。

(「第1回国家戦略特区ワーキンググループ(議事要旨)」より。2013/05/10)

雇用特区はブラック特区になりにくいとする意見について、あなたはどう考えますか?ご意見をお寄せ下さい。

関連記事

注目記事