福島第一原発の汚染水漏れ問題への懸念から、韓国政府が9月9日から福島県を含む8県からの水産物輸入を全面禁止していることを受け、日本政府は、科学的根拠のない不当な輸入制限だとして、韓国を相手取り、年内にもWTO(世界貿易機関)に提訴する方向で検討に入った。産経新聞が報じている。
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■韓国政府が日本の水産物輸入を全面的に禁止した理由
韓国政府はこれまで、福島、青森、岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の8県を対象に、50種の水産物の輸入を禁止していた。しかし、9月6日にこれら8県からの水産物輸入の全面禁止措置を発表した。この厳しい措置の背景には、韓国国民の感情がある。韓国首相官邸のスポークスマンは6日、「福島原発から流出している大量の汚染水に対する世論の懸念が急速に高まっているため」と説明した。福島第一原発の事故以降、韓国では日本産だけでなく韓国産の水産物についても風評被害が広がっており、水産物全体に買い控えが起こっているという。
このような状況から、韓国政府は、8県の水産物全面禁止に踏み切った。8県以外の地域の水産物についても、放射性物質の検査を強化する方針を示し、日本産水産物や畜産物から放射性物質が微量でも検出された場合は非汚染検査証明書を要求することにした。
9月9日付の韓国紙・京郷新聞は、日本から輸入された水産物から放射能が検出された例が14都道府県・131件に上ったとの分析を報じている。地域別では北海道(67件)、東京(22件)、千葉(16件)、愛媛(10件)、茨城(4件)、熊本・鹿児島・静岡(各2件)と書かれていたという。
なお、福島第一原発から流出した汚染物質については、韓国沿岸に達するのに10年かかるとの予想もあるが、現実的には韓国海域へ流入する確率は非常に低いという。
■韓国政府の措置に対する日本の反応は
韓国政府の水産物輸入の全面禁止措置について、菅義偉官房長官は9月6日の記者会見において「わが国は国際的基準を踏まえ、水産物を含む食品の厳格な安全管理を行っている。関連情報は韓国には特に意を用いて提供してきており、科学的根拠に基づいて対応してほしい」と発言している。
また、日本各地からも困惑の声が上がっている。
宮城県漁業協同組合は「なぜ今なのか。科学的な知見もなく、風評被害の何ものでもない」と話している。
群馬県を輸入禁止対象として指定された“海なし県”の群馬県では、担当者が「どうしてそうなったのか全くわからない」と戸惑っているという。
日本の都道府県の中では、韓国に最も水産物を輸出している北海道の高橋はるみ知事は、9月10日の記者会見において、「太平洋側の海水や代表的な魚種の放射性物質のモニタリング情報は定期的に開示しており、安全性には自信がある」と述べ、また、韓国政府に対し科学的根拠に基づいた対応を求めるよう日本政府に訴える考えを明らかにした。
福島県の佐藤雄平知事は6日の記者会見で「試験操業の延期、中止などにより(福島県の)海産物は流通していない」と説明し、「国もしっかり正確な情報を伝え不安や風評の払拭に努めていただきたい」と、海外などへ正確に情報発信するよう国に求めた。
■WTOへの提訴について
このような国内の反応もあり、新たな風評被害を誘発しかねないため、日本政府はWTOに提訴する方向で検討に入った。
WTOは1995年1月に発足した、貿易に関する国際機関。各国が自由にモノ・サービスなどの貿易ができるようにするためのルールを決めたり、分野ごとに交渉や協議を実施する場が設けられている。また、WTOでは、貿易についての加盟国間の紛争を解決するための紛争解決制度が作られており、次のような手順を踏む。
第1段階は二国間協議。申立国による協議要請から60日以内に解決できない場合、申立国は裁判の「一審」にあたる小委員会(パネル)の設置を要請できる。パネルはWTO協定違反に当たるかどうかを判断。判断に不満があれば、紛争当事国は「二審」にあたる上級委に申し立てることができる。違反が認定されると、WTOが是正を勧告。期限までに従わない場合は、提訴国は対抗措置もとれる。
(コトバンク「WTOの紛争解決制度」より。)
なお、農水省によると、これまでWTOでは食品に含まれる放射性物質について争われた例はないという。
■インターネットユーザーの声
一連の報道に対し、インターネットではWTO提訴に賛成する声、懸念する声など様々な反応が上がっている。
韓国政府の水産物輸入の全面禁止措置に対する日本政府のWTO提訴について、あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。