広島での被爆体験を描いた漫画『はだしのゲン』を、昨年12月から松江市内の市立小中学校で閲覧制限がかかっている問題を8月16日に記事にしたところ、19日現在で約30件のコメントが集まった。
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そのほとんどは「子ども達が自由に読めない状態にするのはおかしい」と松江市内での対応に異議を唱えるものだ。『はだしのゲン』の描写に恐怖感をそそるシーンがあることは認めつつも「原爆や戦争の悲惨さは事実」「事実を教えることは有意義なこと」と主張する声が多かった。いくつかコメントを抜粋すると以下のようになっている。
■ハフポストに寄せられた閲覧制限に反対する意見
はだしのゲンを私も小学校の教室においてあるのを読み、怖くて寝られなくなったことを思い出しました。しかし、原爆や戦争の悲惨さは事実です、これを単に表現の度合いで、情報へのアクセスを遮断することは非常に危ういと思います。
(masa22013年08月18日 21時31分)
いくら過激な表現であろうと、性的な表現であろうと、実際に起きたのです。原爆と戦争が原因で起きたのです。そのことをちゃんと教えることは、とても有意義なことだと思います。
(MaTsuGaMi2013年08月17日 14時35分)
原爆と戦中・戦後の混乱期を詳細に描いた漫画作品は、そう他にあるものではないと思います。貸し出しについては(多くの人の目に触れられなくなるという点で)制限を課す必要はあるかもしれませんが、閉架図書にするのは実にもったいない。不適切な描写が多々あると言いますが、その不適切な描写こそが、あの作品には必要なものであり、我々が直視すべきものでもあるので。
(salonianlib2013年08月17日 12時21分)
裸足のゲンは小学生の頃に読んで、ガラスの破片が刺さった被爆者が街中をうろついているシーンとか、父ちゃん姉ちゃん弟が家の下敷きになって焼け死ぬシーンとか強烈に覚えています。小学生にはちょっと残酷というか過激な漫画で、トラウマになる人は結構いるんじゃないでしょうか。学校で、ゲンが学問のすすめの一節を叫ぶシーンとか当時の異常な社会状況を感じました。しかし、そういった内容の漫画に自由にアクセスできることはいいことだと思います。
(aveno2013年08月17日 07時36分)
このように、被爆の生々しい描写が子ども達のトラウマになることも考慮した上でも、自由に作品にアクセスできない状況に憤る声が多かった。
ソーシャルプラットフォームの「change.org」でも、「生きろゲン!」松江市教育委員会は「はだしのゲン」を松江市内の小中学校図書館で子どもたちが自由に読めるように戻してほしい。というネット上の署名運動がスタート。8月19日までに7100人を超える署名が届いてる。
■撤去の陳情書では「誤った歴史認識」と主張
『はだしのゲン』の閲覧制限に対して反対の声が盛り上がりつつあるが、松江市内での閲覧制限の発端となった陳情では実は「被爆の描写」については問題にされていなかった。「松江市の小中学校の図書室から『はだしのゲン』の撤去を求める陳情」を2012年に松江市議会に提出した中島康治さんは、自身のブログで陳情書全文を以下のように掲載している。
件名
松江市の小中学校の図書室から「はだしのゲン」の撤去を求める陳情
要旨
マンガ「はだしのゲン」は子どもの教育に悪影響を及ぼし、間違った歴史認識を植えつけているので、一刻も早く松江市の小中学校の図書室から撤去されるよう求めるもの。
陳情理由
平成11年8月13日法律第127号「国旗及び国歌に関する法律」が施行され、教育基本法にも「国と郷土を愛する態度を養うこと」が盛り込まれました。「はだしのゲン」には、天皇陛下に対する侮辱、国歌に対しての間違った解釈、ありもしない日本軍の蛮行が掲載されています。このように、間違った歴史認識により書かれた本が学校図書室にあることは、松江市の子どもたちに間違った歴史認識を植え付け、子どもたちの「国と郷土を愛する態度の涵養」に悪影響を及ぼす可能性が高いので、即座に撤去されることを求めます。もし撤去できないのであるならば、別紙1から4で表現されている事項について、根拠となる資料を提出されるよう望みます。
このように陳情内容としては天皇制や国歌、日本軍の行為など歴史認識を問題視している一方で、被爆に関する描写は特に取り上げていなかった。中島さんは、このブログで次のようにも書いている。
アメリカが広島と長崎に原爆を落としたことは事実です。それは日本人として絶対に忘れてはなりません。しかし、この本では落とされた経緯が出鱈目なのです。原爆に被爆された体験談と、作者の思想は別にして考えなければなりません
※このように松江市内の小中学校での『はだしのゲン』の閲覧制限をめぐっては、市議会への陳情内容と閲覧制限後の反響では論点がずれている側面もあります。改めて読者の皆様のご意見を募集します。
【訂正】陳情が提出された年が1999年となってましたが、2012年の間違いでした。謹んで訂正します。
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