痴漢事件で逆転無罪判決。理由はなんと「裁判官による誘導尋問」があったから
痴漢をめぐって一審判決で有罪となり、控訴審で争っていた裁判でちょっとした「事件」があった。無罪判決を言い渡した裁判長が「一審の裁判官に誘導尋問があった」と一審を担当した判事を名指しで批判したのである。
裁判の被告人は東京大学准教授の男性。電車内で女性の尻を触ったとして東京都迷惑防止条例違反に問われていた。一審では有罪となり40万円の罰金刑が言い渡されており、被告が控訴していた。
東京高裁の山崎学裁判長は女性の痴漢証言について「一審の裁判官が誘導した」と述べ、罰金40万円とした一審判決を破棄し、無罪を言い渡した。一審判決では、「犯人の指先をつかみ、手や腕をたどって犯人の顔を確認すると男性だった」とする女性の証言が重視されて有罪となった。だが控訴審では、この証言は裁判官によって誘導されたものだとして信用性は乏しいと判断した。
裁判官が検察から提出された証拠の妥当性ではなく、裁判官の尋問とそれにもとづく証言を否定して逆転判決を言い渡すのは異例。
痴漢の冤罪をめぐっては、警察の強引な捜査やそれにもとづく検察の立件方針などについて批判が出ている。今回は間接的に裁判官も冤罪に加担していたことになり、痴漢冤罪に関する議論にも大きな影響を与えそうだ。
確かに痴漢事件の中には、奇妙な判決があるのも事実だ。バスの車内で女子高生を痴漢したとされ、中学教師が東京都迷惑防止条例違反に問われていた東京都三鷹市の事件では、推定無罪ではなく推定有罪ともとれる理由で有罪判決が下されている。
証拠として提出された車内の監視カメラには、被告が片手で吊革につかまり、もう片方の手で携帯を操作している様子が映っていた。だが裁判官は、カメラに写っていない3分間の間に、右手で携帯を操作しながら、左手で痴漢行為をすることは容易ではないが、不可能ではないという理由で有罪とした。常識で考えれば、揺れるバスの車内で吊革にもつかまらず、携帯を操作しながら痴漢行為をすることはかなり難しい。しかも犯行時刻前後のカメラでは被告の両手がふさがっている様子が写されている。また被告人の手のひらの鑑定結果では、繊維が1本も検出されていなかった。普通に考えれば、推定無罪の判決が出る可能性が高いと思われる。
裁判官は行政組織とは異なり、基本的に外部からのチェックを受けることがない。このため、裁判所内部での検証が行われない限り、その判断の是非が評価されることはない。司法の独立は重要だが、それはノーチェックを意味するものではない。
取り調べの可視化など、捜査機関については外部チェックを加えるための議論があるが、裁判所については手つかずの状況である。民主国家である以上、裁判所もチェック・アンド・バランスの例外ではないことをこの判決は示しているといるだろう。
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