大震災から2年3カ月。私たちが身近にできる被災地復興の手段の一つに、仕事や旅行、ボランティア活動などで、実際に被災地を訪れることがある。朝の連続テレビ小説「あまちゃん」でも話題を呼んでいる、岩手県の沿岸部を走る三陸鉄道は「震災学習列車」の申し込みを受け付けている。貸し切り列車を臨時運行し、社員や沿線住民が被災地を案内し、大震災と防災を学ぶというものだ。ガイド料込みで1車両5万円だ。
また、24日には、宮城県石巻市から南三陸町にかけての沿岸を自転車で走る「ツール・ド・東北2013」の参加受け付けが始まった。石巻市を発着点に60、100、160キロの3コース。参加費はコース別で1人6千~1万円だ。(朝日新聞デジタル「ひと・まち掲示板 東日本大震災」より。2013/06/24)
被災地の「観光」には、大事件や大事故の教訓を継承していくため、悲劇の現場を歴史遺産として保存し、観光学習施設とする「ダークツーリズム」という考え方もある。
英国にはダークツーリズムを専門に研究する大学の機関もある。「負の文化遺産」とも呼ばれ、世界に目を向ければチェルノブイリ原発(ウクライナ)やアウシュビッツ収容所跡地(ポーランド)、最近ではニューヨークのグラウンドゼロ(アメリカ)など。
日本でも、東日本大震災の被災地の復興が進むなか、津波や震災で被害を受けた役場庁舎跡や難破船などの建造物を「震災遺構」として保存するかどうか、各地で議論になっている。
また、批評家の東浩紀さんやジャーナリストの津田大介さんらは、福島第一原子力発電所とその周辺を「観光地」とする構想を、提唱している。現在の構想では、原発から20キロ前後の場所に、宿泊施設を備えた総合拠点「フクシマゲートヴィレッジ」を設置。災害の記憶を伝える博物館や、自然エネルギーの研究施設を併設し、客たちはそこからバスに乗りこみ、事故跡地を訪れて廃炉作業を見学するという。
こうした構想には、賛否両論がある。朝日新聞デジタルの記事は、地元の人たちの心情を次のように伝えている。
「匿名ならば語れる」という男性会社員(39)は、「一番怖いのは事故が風化していくこと。原発を観光資源化することは一つの防止策になる」と評価した。
「でも実名で話せと言われれば、僕も『地元の反感に配慮してほしい』と言います。周囲に悲しむ人や怒る人がいるかもしれないからです。その意味で、東さんのような『よそ者』の人々の発言は歓迎したい」
(朝日新聞デジタル「福島第一、象徴化の意味は 観光地化計画の現地を歩く」より。 2013/02/25)
世界的に有名な日本の「負の文化遺産」には、世界遺産に登録された広島の原爆ドームがある。前述の記事の中で、広島大学の篠田英朗准教授(平和構築論)は、戦後の広島には原爆ドームを残すことに反対の意見もあり、合意形成に20~30年を要したと説明、「負の経験をしたときに人間は、その経験に肯定的な意味づけをしたいという衝動を抱く。その衝動を形付け、昇華させることは、重要な行為なのだ」と解説する。
ヒロシマ、ナガサキと並び、「フクシマ」の名は世界中の人々の記憶に刻まれた。フクシマの教訓をどう次代に継承していくのか。私たち、日本人ひとりひとりが向き合っていかなくてはならない。