シリア・アサド政権がついに「レッドライン(絶対に越えてはならない一線)」を越えてしまったようだ。
アメリカ政府は13日、アサド政権が反体制派に対して神経ガスなどの化学兵器を使用し、多数の死亡者が出たことを確認したと発表した。
非人道的な化学兵器を使って人々を殺傷したことが確認されたことで、アメリカはシリア反体制派支援を本格化させる方針を固めた。今後、武器の供給なども行われるとみられている。
時事通信は以下のように伝えている。
ローズ米大統領副補佐官(戦略広報担当)は13日、電話で記者会見し、シリアのアサド政権が反体制派に対して神経ガス・サリンを含む化学兵器を使用したと結論付けたことを明らかにした。100~150人が死亡したと推定される。オバマ大統領はこれを受け、反体制派への軍事を含む支援の拡大を決めた。【ワシントン時事】
(時事通信 2013/06/14 06:03)
New York Timesもツイッターで一報を伝えた。
■化学兵器とは
化学兵器は核兵器に比べて材料の入手や製造が容易であることから「貧者の核兵器」とも呼ばれる。
狭義の意味では「毒ガス」のことをさし、広義では化学反応を直接利用する兵器で、普通、火薬類は除く。毒ガス、発煙剤、発炎発光剤、焼夷剤などが含まれる。狭義の化学兵器は核兵器、生物兵器とともにABC兵器と呼ばれ、非人道視されている(百科事典マイペディアより)
日本では、オウム真理教が製造・使用したVXガスやサリンガスといった神経ガスが知られているが、それらを呼吸器系や皮膚から吸収すると、数分もたたないうちに呼吸困難や全身けいれんを引き起こし、死に至る。
■イラン・イラク戦争で化学兵器使用
近年、化学兵器が使用された例として、イラン・イラク戦争末期の1988年、イラク北部クルド自治区のハラブジャという村でマスタード、サリンなどの混合ガスが使われた「ハラブジャの悲劇」がある。約5千人の村民が犠牲になったという。この村のクルド人たちがイラン側に通じているという理由でイラクが使用したという説が多いが、確証はなく、未だに誰がやったのかはわかっていない。第一次世界大戦中にも、ベルギー国内でドイツ軍がイギリス軍に対して毒ガス(塩素ガス)を使用し、イギリス兵5千人が死亡したとされる。
化学兵器が使われた可能性については、以前から欧米の各メディアが指摘していたが、アメリカが公式に使用を認めたのは初めて。アサド政権高官からの話のほか、化学兵器が使われたとみられる時間や場所、攻撃手段、被害者の状況などに関する情報を基に結論付けたという。過去1年の間にシリア北部のアレッポ付近で使用されたとみられている。
■93000人以上が犠牲に
国連とHuman Rights Data Analysis Groupがまとめた報告書によると、紛争が始まった2011年3月から今年4月までの約2年間で93000人以上のシリア人が犠牲になったという。単純計算すれば毎日130人近くが亡くなっている計算になる。
紛争が激化した2012年7月以降は月間の平均死者数が5千人に達し、国連は「shockingly high levels」という表現を使って危機的な状況を訴えている。また、「これは『少なくとも』の数字であり、実際の死者数はもっと多いと考えられる」としている。民間団体の調査では12万人以上という報告もある。
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