紙の本や雑誌を裁断し、スキャナーで読み取って電子データに変える蔵書の電子化、いわゆる「自炊」。デジタル時代の便利なツールとして人気沸騰、スキャン代行サービスなる専門業種も登場する一方で、作家や出版社ら著作権者が業者を訴えるなど、いまも訴訟中だ。
そんな中、専門業者たちが15日、蔵書の電子化を行う為の環境づくりを目指す業界団体「日本蔵書電子化事業者協会」の設立に向けた準備会を立ち上げた。ネット系のITメディアは、その意義を次のように報じている。
権利者側では3月に蔵書電子化事業連絡協議会(Myブック変換協議会)を設立。蔵書の電子化におけるルールの策定と許諾スキームの推進を目的に活動しているが、今回のようにスキャン代行業者からの明確なアクションがないまま、5月には、スキャン代行を装い、いわゆる海賊版を違法に販売していた業者の運営者が逮捕されており、一定のルールを設けていくべきだという共通認識が業界には高まってきていた。
(ITメディア「ブックスキャン、「日本蔵書電子化事業者協会」の設立へ」 2013/5/15)
紙の出版物の電子化(英語ではbook scanning または book digitalizing)に対して、電子書籍大国のアメリカではどんな状況になっているのだろうか。
アメリカで大きな話題を呼んだのがグーグルの「図書館プロジェクト」をめぐる著作権侵害訴訟だ。これについては昨年10月、原告側の米国出版者協会(AAP)とグーグルの間で、出版社側から要請があれば検索から除外することで和解し、7年越しの係争は決着をみた。ただ、同様にグーグルを訴えていた全米作家協会とは和解に至っていない。
グーグルは全世界の公共図書館や大学図書館の蔵書をデジタル化し、インターネットで検索、閲覧できるようにするプロジェクトを2004年に始めた。著作権が失効したものは全文閲覧でき、保護期間内のものは一部を表示し、購入先や所蔵図書館を案内するものだ。アメリカでは、この行為が著作権侵害にあたるとして、2005年にAAPなどが集団訴訟を起こしたのだ。昨年10月の両者の「和解」について、米国のあるニュースサイトは、「裁判所は書籍の電子化を公正な利用だとみなした。ほぼグーグル側の勝利だ」と結論づけた。
ちなみに日本でもグーグルは同様のサービスを進めており、作家や編集者でつくる日本ペンクラブが反発していたが、最近になって、著者や出版社から要請があった場合は検索の対象外とすることで合意している。
電子書籍大国のアメリカのこと。当然ながら、「自炊」を志向する人たちの開発熱も熱く、自ら〝自炊マシン(DIY Book Scanner-DIYはDo It Yourselfの意)〟を開発したアーティスト、ダニエル・リーツさんのインタビューが米国のビジネス・インサイダーに掲載された。彼はインターネットのコミュニティーで「自炊マシン」をつくる技術を公表、オープンソースを使って技術改良を重ねている。たいていの人がすでに持っているもの(コンパクトカメラやプラスチック、発泡スチロール等)と無料のソフトウエアでつくれるという。475ドルでサイトから注文もできるそうだ。
リーツさんは記事の中でこう語っている。「著作権法は前時代的だ。電子機器で1秒で数千回のコピーができる時代にそぐわない。(中略)いずれは紙とデジタルの『いいとこどり』が登場することを期待している。新事実が書き加えられるたびに改訂版を買い直す必要のない百科事典や、飛行機の離着陸のたびに消さずにすみ、いろいろと書き込める電子書籍とかね」